【ビルおじさんのいないファッションウィーク】 仕事を始めたころ、ファッションショー会場の外でカメラを構えているのはいくつかの日本の媒体とビル・カニンガムさんだけでした。被写体の足を止めることなく素早くシャッターを押してレバーでフィルムを巻き上げる。いやになるほどいい笑顔で電光石火のごとくそれを行い、あっという間に次の会場に忍者のように現れるビルさんの身軽さは凄まじいものがあり、あんな風貌で実は20代なんじゃないかと疑ったこともありました。 誰からも好かれる存在で、気難しい業界人でも誰ひとり、唐突に撮影されて嫌な顔はしません。私自身、スナップ取材担当だったので「あの、写真撮らせてください」とモデルや編集者に声を掛けては無視されることも多かったあの頃、目の端っこでビルさんの仕事を眺めては、どうしたらあの域に達することができるのか注視したものです。やはりあれか、あの笑顔か。いや長年の積み重ねか、そうに違いない。つつつと寄っていって聞きました、「あのぅ、何年この仕事をされているんですか?」。するとあの笑顔のまま振り返って「とても、とても、とても長く」と答え、あっという間に次の被写体のもとへすーっと立ち去ってしまったビルさん。 同じスナップ隊として仲良くなりたかったんです。調子はどうですかなんて挨拶したり、その程度でいいから同じ「ショー会場の外」仲間になれる日を図々しくも夢見ていました。でも、笑顔は絶やさないけれど、群れることはないビルさんはいつでも孤高の存在で、軽々しく近寄った若い頃の自分のことは、あとになって思い出すとなんだか恥ずかしい。ドキュメンタリー映画が封切られた直後のシーズンは、あなたの写真を撮っていいですかという押し寄せる若いファン(?)を、つれなく無視している姿も印象的でした。仕事を邪魔されたくなかったに違いありません。 会場の外で撮影をしたあと、ビルさんは顔パスでショー会場に入り、階段のいちばん前やフロントロウの端で今度はランウェイを撮影していることもありました。ぼんやりした会場でもその目はキラキラと輝いていて、純粋な愛情が伝わってくる。ランウェイ越しにその姿を見つけては、背筋が伸びる思いがしたものです。 その後、ショー会場外のスナップカメラマンの数は増え続け、レンズの群集の中にビルさんの青いジャケット姿が埋もれることも多くなりました。ギュウギュウの人ごみの中、たまたま隣にビルさんがいて、肘鉄をくらったのも今ではいい思い出です、とはSPURの取材班のカメラマンM氏の言葉。時代が変わっても、飄々とファッションの最前線で好きな写真を撮り続けたビルさん、最後まできっと幸せだったのではないかな、なんて考えています。 あるとき、ルーヴル美術館の会場で斜め後ろから被写体を待っていたとき、前方でカメラを構えたビルさんの青いジャケットの肘がほつれているのが目に飛び込みました。ささやかなことだけれど、あの光景はずっと忘れないと思います。(編集G)#BillCunningham#SPUR編集G

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SPURのインスタグラム(spurmagazine) - 6月27日 13時17分


【ビルおじさんのいないファッションウィーク】
仕事を始めたころ、ファッションショー会場の外でカメラを構えているのはいくつかの日本の媒体とビル・カニンガムさんだけでした。被写体の足を止めることなく素早くシャッターを押してレバーでフィルムを巻き上げる。いやになるほどいい笑顔で電光石火のごとくそれを行い、あっという間に次の会場に忍者のように現れるビルさんの身軽さは凄まじいものがあり、あんな風貌で実は20代なんじゃないかと疑ったこともありました。
誰からも好かれる存在で、気難しい業界人でも誰ひとり、唐突に撮影されて嫌な顔はしません。私自身、スナップ取材担当だったので「あの、写真撮らせてください」とモデルや編集者に声を掛けては無視されることも多かったあの頃、目の端っこでビルさんの仕事を眺めては、どうしたらあの域に達することができるのか注視したものです。やはりあれか、あの笑顔か。いや長年の積み重ねか、そうに違いない。つつつと寄っていって聞きました、「あのぅ、何年この仕事をされているんですか?」。するとあの笑顔のまま振り返って「とても、とても、とても長く」と答え、あっという間に次の被写体のもとへすーっと立ち去ってしまったビルさん。
同じスナップ隊として仲良くなりたかったんです。調子はどうですかなんて挨拶したり、その程度でいいから同じ「ショー会場の外」仲間になれる日を図々しくも夢見ていました。でも、笑顔は絶やさないけれど、群れることはないビルさんはいつでも孤高の存在で、軽々しく近寄った若い頃の自分のことは、あとになって思い出すとなんだか恥ずかしい。ドキュメンタリー映画が封切られた直後のシーズンは、あなたの写真を撮っていいですかという押し寄せる若いファン(?)を、つれなく無視している姿も印象的でした。仕事を邪魔されたくなかったに違いありません。
会場の外で撮影をしたあと、ビルさんは顔パスでショー会場に入り、階段のいちばん前やフロントロウの端で今度はランウェイを撮影していることもありました。ぼんやりした会場でもその目はキラキラと輝いていて、純粋な愛情が伝わってくる。ランウェイ越しにその姿を見つけては、背筋が伸びる思いがしたものです。
その後、ショー会場外のスナップカメラマンの数は増え続け、レンズの群集の中にビルさんの青いジャケット姿が埋もれることも多くなりました。ギュウギュウの人ごみの中、たまたま隣にビルさんがいて、肘鉄をくらったのも今ではいい思い出です、とはSPURの取材班のカメラマンM氏の言葉。時代が変わっても、飄々とファッションの最前線で好きな写真を撮り続けたビルさん、最後まできっと幸せだったのではないかな、なんて考えています。
あるとき、ルーヴル美術館の会場で斜め後ろから被写体を待っていたとき、前方でカメラを構えたビルさんの青いジャケットの肘がほつれているのが目に飛び込みました。ささやかなことだけれど、あの光景はずっと忘れないと思います。(編集G)#BillCunningham#SPUR編集G


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2016/6/27

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