平泉春奈のインスタグラム(hiraizumiharuna0204) - 3月9日 20時02分
『夜桜追懐』
まだ冬の寒さがわずかに残る3月の夜。
どこからともなく甘い花の香りが漂う。
「おお!桜だ!」
「へえ……こんなところに咲いてたんだね」
「いつもと違う道を選ぶだけで、何気ない発見ってあるもんだな」
「突発的な夜の散歩も、悪くないでしょ?」
「まあ……突然アイス食べたい!とか言われた時は"コイツ……"って思ったけど」
「へへへ、アイス食べながら辰也と夜散歩したいなって思い立ってしまいまして」
言いながら、咲き誇る大きな桜の木を見上げる。
視界に広がる鮮やかなピンク。
その花びら一枚一枚がちらちらと舞い始めている。
「雪みたいだなあ」
辰也の一言で突如、甘苦い懐かしさが胸の奥に広がっていく。
ああ、彼とあの日……こんな夜桜を見たっけ。
*
「あっちゃん、本当にこれでいいの?」
「うん」
「俺達、他人になっちゃうんだよ?その意味分かる?」
「元々他人じゃん。今だって別に……戸籍上は他人なわけで」
「でも俺、あっちゃんのこと他人だなんて思ったことない」
「……」
「俺、どうしようもなくダメなヤツだし、あっちゃんのこと泣かせてばっかだけど……でも何があっても大好きなのはあっちゃんだけで……それはこの先も変わらないよ。考え直してほしい、お願いだよ」
「人が人を信じることができる時って、たとえ裏切られても受け入れられるって思えるだけの、深い愛がある時だよね」
「……もう俺のこと、好きじゃないの?」
「……たぶん、好きだよ。でもだからこそ、一樹がしたことは許せない。好きだから、苦しいの。好きだから、別れたいの。このまま一緒にいたら、一樹のこと嫌いになっちゃうかもしれない。大切な思い出が、別のものに変わっちゃうかもしれない。それが、怖いの。分かって……」
「あっちゃん……ごめん、ごめんね。ほんとに俺、バカだった……」
「謝るくらいならっ……ううん、もういいの」
「……」
「多分私は、この先もずっと、一樹のこと好きだよ。これから誰と付き合うことになっても、誰と結婚しても、一樹は私にとってすごく大事な人だった。その事実は変わらないから」
「……それだけでも、聞けて嬉しい」
「次付き合う人は、泣かせちゃダメだよ」
「俺はもう、誰とも付き合わないよ」
「……あ、桜」
「ああ……よく見たら、こんなに咲いてたんだ」
「なんか……雪みたい。桜の下で別れ話って、この先桜見る度に思い出しちゃいそう」
「思い出して欲しい。忘れないで、俺の事……」
「……泣かないで。私まで泣けてきちゃうよ」
「あっちゃん、今まで、ありがとう……」
*
「明日香?どうした?」
「あ……ううん、なんか懐かしいこと思い出して」
「そっか。俺も、桜見てると色々思い出すなあ」
「どんなこと思い出すの?」
「ははっ、くだらないことだよ」
「……もし言いたくなったら、いつでも言ってね」
「うん。あ、アイスに桜が」
「あはは、トッピング付きになった!ってか、寒くなってきたぁ……」
「アイスなんか食べてるからだろ。ほら、おいで」
「ん……」
「可愛い、チューしていい?」
「え……外だよ?誰か見てないかな」
「桜に免じて許してもらえるよ」
辰也の顔が急激に近づいて、ふわりと唇が重なった。
春を感じるような、温かな幸せに包まれる。
一樹が言った「忘れないで」という言葉は
私の心の奥に、今も残ってる。
初めて苦しくなるほど愛した人。
7年という歳月を家族のように過ごした人。
笑った分だけ涙を流した。
幸せな分だけ苦しみもあった。
そのすべてが、思い返せば愛しい時間だった。
彼がいたから今の私がある。
忘れたくない気持ちも、思い出したい記憶も
彼は桜が咲くあの夜、私の中に全部残してくれた。
あなたが今、幸せでいてくれたらいいな……
そう心の中で呟くと同時に、
頬を一筋の涙が流れた。
Fin.
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桜を見ると思い出す記憶はありますか?
別れの痛みは、別れを経験した人にしか分からない。そして、別れを超えた先にある幸せもまた。
来年のカレンダー用に桜の絵を描きたいなあと思って今回の物語の構想練ったら、なにやら切ない系になってもーた。
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2022/3/9