北欧、暮らしの道具店のインスタグラム(hokuoh_kurashi) - 9月16日 17時00分


【57577の宝箱】あのころの夢が身体に染み渡る 休みの朝のフレンチトースト
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「将来の夢は?」
と尋ねられても、答えられない子供だった。

バレリーナになりたい、漫画家になりたい、獣医になりたい、先生になりたい。
友達の夢を聞きながら、さて自分はと考えてみても、優れているところも得意なこともなかったので、大人になったとき自分がどんな仕事をしているのか全然想像できなかった。もしかしたら、脳内にストッパーがかかっていたのかもしれない。叶うかどうかもわからない夢を持つのが、こわいことのように感じていたから。

その反動だろうか。将来の夢はなかったが、「やれば叶う」小さな夢ならたくさんあった。
たとえば、大人になったら行きつけの喫茶店をつくりたい、フローリングの部屋に住みたい、好きな音楽をかけながらドライブしたい、ハイヒールを履きたい、エアメールを出したい、きれいに爪を塗りたい……などなど。
生活の中のささやかな喜び。その大半は自分の実生活にはなく、本や映画の中の大人たちから学んだものだった。そういったものに憧れながら、いつか自分もそういう喜びを手に入れられる大人になろう、と思っていた。

わたしはこういう「やれば叶う」夢を、切り札のようにとらえていた。
人生のなかでしんどくなったときに差し出す、魔法のカード。それさえあれば、つらいときでも切り抜けられるというような。
だからわたしは、その魔法のカードを大事にしまっていた。「いざというときに使うんだ」と言って、しんどいときもつらいときも「まだ大丈夫」と出し渋って。
結果、月日だけが過ぎていき、大人になってからずいぶん経っても、夢は滅多に叶えられないまま、心の奥深くに数多く残っていた。

§

そういった夢のひとつに、「休日の朝にフレンチトーストを作りたい」というのがある。

その夢が生まれたのは、大学生のときだ。
本屋さんでアルバイトをしているとき、ふと雑誌を開いたら、フレンチトーストの写真が載っていた。きれいなきつね色に、おいしそうな焦げ目。粉砂糖がうっすらと初雪のように積もっていて、てっぺんには木苺のジャムが乗っている。
モデルさんは、休日の朝にはよくこれを作るのだ、と言っていた。「私も娘も、フレンチトーストが大好きなので」と。

こんなフレンチトーストが、なんでもない休みの日に、家で食べられるだなんて!
わたしは驚嘆した。なんて豊かな朝、豊かな生活なんだろう。すごく羨ましい。
そのときまでわたしは、フレンチトーストを作ったことがなかった。喫茶店で食べたことはあったが、あれはお店で食べるものだと思い込んでいて、自分で作ろうとは考えたこともなかった。だけど、あんなにおいしいものが自分で作れたらすごくいいだろうなと思った。いつか自分も休みの日の朝にフレンチトーストを作ってみよう、きっととても幸せな気持ちになるのだろうと。

友人にその話をしたらびっくりされて、「フレンチトーストなんて簡単につくれるよ」と言われた。作り方を教えようか?とまで言ってくれたのに、わたしはその申し出を断った。
「いざというときに作るからいい。そのときまでとっておくの」
すると友人は呆れたように笑って、
「いざというときじゃなくて、いま幸せな気持ちになればいいのに」
と言った。

でもわたしは、夢を叶えてしまうと、魔法のカードを出してしまうと、それが消えてしまいそうで怖かったのだ。
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(本サイトにつづく)
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執筆:土門蘭
写真:吉田周平
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2020/9/16

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