今回の旅で最も衝撃的な記憶は、ミラノのプラダ・ファンデーションでの6分半のVR体験でした。アレッハンドロ・イニャリトゥ監督による「CARNE y ARENA(肉と砂)」という作品はメキシコから米国への不法移民の決死の密入国を追体験する映像で、プラダ財団の特設会場を15分ずつ、たったひとりで独占するビジュアル体験。残念ながら1月15日で半年の会期は終了しているけれど、もしどこかで再開するならそれだけのために旅をしてもいいと思っています。 細かく記録しても長くなるだけなので、ポイントだけを言えば、砂が敷き詰められた広い部屋の中に裸足で入る。VRヘッドセットとヘッドフォン、行動制限用のリュックを背負う(係が常にそのリュックをつかんでいて壁にぶつかりそうになると引っ張る)。 やがて目の前に広がるのは米国とメキシコ国境の広大な荒野、夜明け前。ブッシュやサボテン、遠くに山がぼんやり見える。自分は裸足で暗闇の砂漠に一人きり、不安になって周りを見回していると、移民の10人ちょっとの集団がフラフラと近づいてくる。coyoteと呼ばれる案内役、彼に多額の借金を背負わされて米国に渡ろうとする老若男女、歩くのがやっとのお母さんも、年端のいかない子供達もみなおびえながら。VRのその世界では僕は透明だから、彼らの間を自由に歩き回れる。後ろにも回れるし列にも入れるし、誰かのそばで会話も聞ける。どの位置からもどの高さからも、現実と同じに見える。 突然、空の向こうから轟音が響いて、強力なサーチライトで不法移民を探すヘリコプターが飛んでくる。光の中に囚われて視界が飛ぶ!振り向くと近づいてきたフォードのSUV、二台のパトロールカーからセミオートを抱えた警備隊がわらわらと降りて来て、こちらに怒鳴り声をあげる。「ひざまづけ!」の声につい、自分も皆と一緒にひざまづいてしまう。銃を向けられるのは初めてだもの。銃のサーチライトの輪の中にいると体が動かなくなる。自分は10数人の怯えたメキシコ人の集団の只中で、重装備の国境警備隊に逮捕されそうになってるわけ、リアルじゃないけど本当にリアルに。後ろを向くとおばさんが倒れているし、右には逃げ出そうとして追い詰められている男性が。徐々に夜明けになる中で、罵声と轟音に囲まれておろおろするのみ。突然、砂漠の中にメキシコの食卓の幻影が現れて歌が聞こえたりもして、その時の静けさがまた怖いんだ。ナイフで切ったように騒ぎがふと消え、自分は朝を迎えた砂漠に一人取り残される。 前室には7年かけて荒野で集められた不法移民の靴が並べられている。そのうちの少なくない人たちが事故やら飢え渇きで亡くなっているという。 一人、夜明けの荒野で、自分が裸足にされている意味に気がつく。法うんぬん以前の純粋な恐怖のかたまりがズーンと体に残って消えようとしない。 ポンポンと肩を叩かれて、装備を外す。次の部屋では何人もの移民や警備隊の証言を見ることができた。 イニャリトゥと撮影監督のルベツキがまた残してくれた記憶。もうフラフラですよ、ボーッとしちゃって。今風邪引いてるのも、クレジットカード一枚とお気に入りのドルチェのマフラーと、ドルチェの高いベルトを無くしたのも、このVRのせいだよ。 それは、違うよ! #fondazioneprada #carneyarena

zentanishidaさん(@zentanishida)が投稿した動画 -

西田善太のインスタグラム(zentanishida) - 1月21日 02時33分


今回の旅で最も衝撃的な記憶は、ミラノのプラダ・ファンデーションでの6分半のVR体験でした。アレッハンドロ・イニャリトゥ監督による「CARNE y ARENA(肉と砂)」という作品はメキシコから米国への不法移民の決死の密入国を追体験する映像で、プラダ財団の特設会場を15分ずつ、たったひとりで独占するビジュアル体験。残念ながら1月15日で半年の会期は終了しているけれど、もしどこかで再開するならそれだけのために旅をしてもいいと思っています。

細かく記録しても長くなるだけなので、ポイントだけを言えば、砂が敷き詰められた広い部屋の中に裸足で入る。VRヘッドセットとヘッドフォン、行動制限用のリュックを背負う(係が常にそのリュックをつかんでいて壁にぶつかりそうになると引っ張る)。 やがて目の前に広がるのは米国とメキシコ国境の広大な荒野、夜明け前。ブッシュやサボテン、遠くに山がぼんやり見える。自分は裸足で暗闇の砂漠に一人きり、不安になって周りを見回していると、移民の10人ちょっとの集団がフラフラと近づいてくる。coyoteと呼ばれる案内役、彼に多額の借金を背負わされて米国に渡ろうとする老若男女、歩くのがやっとのお母さんも、年端のいかない子供達もみなおびえながら。VRのその世界では僕は透明だから、彼らの間を自由に歩き回れる。後ろにも回れるし列にも入れるし、誰かのそばで会話も聞ける。どの位置からもどの高さからも、現実と同じに見える。

突然、空の向こうから轟音が響いて、強力なサーチライトで不法移民を探すヘリコプターが飛んでくる。光の中に囚われて視界が飛ぶ!振り向くと近づいてきたフォードのSUV、二台のパトロールカーからセミオートを抱えた警備隊がわらわらと降りて来て、こちらに怒鳴り声をあげる。「ひざまづけ!」の声につい、自分も皆と一緒にひざまづいてしまう。銃を向けられるのは初めてだもの。銃のサーチライトの輪の中にいると体が動かなくなる。自分は10数人の怯えたメキシコ人の集団の只中で、重装備の国境警備隊に逮捕されそうになってるわけ、リアルじゃないけど本当にリアルに。後ろを向くとおばさんが倒れているし、右には逃げ出そうとして追い詰められている男性が。徐々に夜明けになる中で、罵声と轟音に囲まれておろおろするのみ。突然、砂漠の中にメキシコの食卓の幻影が現れて歌が聞こえたりもして、その時の静けさがまた怖いんだ。ナイフで切ったように騒ぎがふと消え、自分は朝を迎えた砂漠に一人取り残される。

前室には7年かけて荒野で集められた不法移民の靴が並べられている。そのうちの少なくない人たちが事故やら飢え渇きで亡くなっているという。

一人、夜明けの荒野で、自分が裸足にされている意味に気がつく。法うんぬん以前の純粋な恐怖のかたまりがズーンと体に残って消えようとしない。

ポンポンと肩を叩かれて、装備を外す。次の部屋では何人もの移民や警備隊の証言を見ることができた。

イニャリトゥと撮影監督のルベツキがまた残してくれた記憶。もうフラフラですよ、ボーッとしちゃって。今風邪引いてるのも、クレジットカード一枚とお気に入りのドルチェのマフラーと、ドルチェの高いベルトを無くしたのも、このVRのせいだよ。

それは、違うよ!
#fondazioneprada #carneyarena


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2018/1/21

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